ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

バスティアニーニ巡礼 2 

 

ある邸宅からピアノの音色が聴こえてくる。「誰が弾いているんだろう?」「いいなぁ・・・ピアノ・・・いいなぁ」

塀の外で、ある種の憧れを感じながら聴いていた子供たち・・・

「ピアノ・・・習いたいな」「なんだって?夢のような事言ってるんじゃないよ。そんなお金あるわけないだろ?それよりお前も手伝っておくれよ、こっちがこんなに忙しいのに遊んでばかりいるんじゃないよ」「う、うん・・・」

かつて、どれくらいの人がピアノを諦めたのだろう?ピアノという楽器に触ることもできずに、憧れをさえ持つことのできなかった人は多かったと思う。

今、ピアノ教育界は大きなチャンスを迎えているのだと思う。かつての垣根が取り払われたのだ。電子ピアノの出現。電子ピアノだと、どうとか、やはり本物のピアノじゃないと・・・とか言っている時期ではないような気がする。ピアノ教育史的には、とても大きなチャンスなのだ。

ピアノを習い始める時、鍵盤から色々な音が出てくるだけで楽しい。「わっ!」「きゃっ!」・・・それを本当の音楽的開眼の時期まで、どのように引っ張っていくかが課題なのだと思う。導入から開眼までの間にタイム差のあるのがピアノという楽器だ。そこが上手くいってないよね・・・と思う。本当に残念だ。音楽への開眼の前に「弾けない!」「つまらない!」と離れていく子供たち、開眼後、再びピアノに触れた時に自分の基礎力のなさに愕然とする人たち・・・

何かが上手くいっていない・・・

エットレ・バスティアニーニも、多くの歌手たちと同様に、邸宅でピアノを弾いていた側ではなく、塀の外で憧れを秘めながら聴いていた側、そのような境遇だった。

彼は私生児として誕生した。父親のことは知らない。豊かな家庭ではなかった。イタリアは、割と「村的」な繋がりが強いのだと言う。特にシエナという街はそうであったと・・・

「お前・・・私生児なんだってな!」「お前の母ちゃん、ふしだらなんだってな!」

エットレは、シエナでの子供社会を生き抜くため、強くなっていった。「誰にも何も俺には言わせない!」「もう絶対に泣いたりなんかしない!」

エットレは、母親にも手のつけられないような腕白に育った。それが彼の生きる術だったのだ。「ぜったいにいじめらるもんか!」

「あの子がああなのは私のせいなんだ。あの子も不憫だねぇ・・・」

そんな時、一人の人物が親子の前に現れた。ガエターノ・ヴァンニという人物だ。エットレは母親にも祖母にも、手のつけられないような「悪がき」だったのだ。そして、このヴァンニにエットレを託したのだ。

「もう私らにはどうしようもなくて・・・」

「エットレにも困ったものだな。あんたたちの苦労はわかるよ。私でよければ面倒みるよ・・・」

ヴァンニとの出逢いがエットレを歌手への道へ導いたのだ。ヴァンニはエットレの歌手生命が終わるまで、終わった後も、エットレ支え続けた人物でもある。ヴァンニは菓子工房を営んでいた。エットレはそこで働くことになった。

ヴァンニはアマチュアの歌手だった。合唱団に所属し歌っていた。仕事場でも大好きな歌を歌っていた。

ある日、ヴァンニは働きながら歌っていたエットレの声を聴くのだ。「これは・・・この子は・・・なんという声なのだ?」

「エットレのことなんだが・・・あの子は素晴らしい声を持っている。正式に声楽のレッスンを受けさせるべきだと思うんだが、どうだろうか?」

「声楽のレッスン?私たちにはそんなお金無理です」

「お金のことは何とかするさ。でもエットレの将来のことだ。大事なことなんだよ・・・」

「エットレのことはヴァンニさんにお願いします。私らでは何もしてあげられない。ヴァンニさん、エットレのこと、お願いします」

「エットレ、お前、本格的に歌を勉強してみないか?」

「でも家にお金なんかないよ?僕の家、貧乏だから・・・」

「お金のことは心配しないでいい。エットレ、やってみるか?」

「俺、俺・・・歌が好きだ。好きなんだ。ヴァンニさん・・・俺、やってみるよ」

エットレは歌の魅力に、音楽の魅力に開眼していたのだ。彼は、そのまま道を歩み続けた。それだけのことだ。歌が好きだった。歌うことが好きだった。そして音楽に開眼していた。ただそれだけ・・・

エットレは垣根を越えた。音楽を聴いて、ただ憧れるだけ、それだけが許される境遇から垣根を飛び越えたのだ。運命に導かれて・・・

今、その垣根は存在しない。だれでも憧れを持つことができる。でも憧れを知ることなく終わってしまう人は多い。

「ヴァンニさん・・・俺、俺・・・歌が好きだ・・・やってみるよ・・・」



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