ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

「永遠のサウダージ」 

 

スペイン旅行を共にしている友人の名前はマルチェロという。以後Mとしようと思う。実は、今回の旅で彼に頼んでいたことがあった。それは、ギターを弾いてもらうこと。彼はアマチュアのギタリストでもある。今回の旅行が彼のギターを聴く最後の機会になるかもしれないと思った。彼は自分のギターを持ってきてくれた。

「僕のギターなんて・・・趣味なんだし・・・」

Mは僕と異なり、ピアノを習った経験はない。でも子供の頃の自宅にはピアノがあったし、両親ともプロの音楽家ではなかったけれど、心底音楽を愛する愛好家だったので、Mは幼い頃より音楽、特にオペラに親しみながら育った。ミラノ育ちだから、スカラ座で何度もオペラを聴いたのだという。ここが不思議なのだが、習ったことはなくても、なんとなくピアノは弾けるのだそうだ。むろん、超絶技巧の曲を本格的に・・・というわけではないが。

Mと僕が大学で知り合った頃、特に音楽の話をするということもなかったが、帰国後、お互いに音楽とは無縁の職業に従事しながらも、やはり音楽からは離れられないという気持ちは、お互いに共有し、その気持ちを確かめ合った。

「楽器が弾けるって憧れるよねぇ・・・いいよねぇ・・・でも練習する時間なんてないしねぇ・・・」

僕は、40歳を過ぎてから、ピアノを再開したけれど、Mは35歳の時にギターを習い始めた。

ある日、Mはラジオから聴こえてくるギターの音色に魅せられてしまった。残念なことに、曲名が分からなかった。その曲を何年も探した。でもギターの曲は多い。なかなか見つからない。

「ギターを習おう、そうすれば、いつか聴いた、あの曲にも巡り合えるかもしれない・・・」

ギターという楽器に魅せられたというよりは、その曲を知りたいという気持ちからギターを習い始めた。

「なんというか、呼吸ができないくらいに圧倒されてしまってね。しばらくボーッとしていたよ。知りたいという気持ちから弾いてみたい、自分でも弾いてみたいという気持ちになってきてしまってね・・・」

彼のギターを何故かスペインの台地で聴きたかった。これは僕の我儘だ。スペインの後は、イタリアに行き、彼の自宅にも泊まるから、そこで聴けばいいのだ。でも、どうしてもスペインで聴きたかった・・・

Mは、長年探し求めていた曲を、とうとう探し当てた。4年ほど前のことだったという。そして、その曲を練習した。何時間も・・・

車を走らせていると、小さな村があった。その村の小さなレストラン・・・僕らの他には誰もいない・・・

「ここでギターを弾いてもいいだろうか?」

「もちろんですよ!我々も聴かせてもらってもいいですか?」とそのレストランの主人、そして切り盛りする娘さん・・・

「いやぁ・・・どうしよう・・・この曲は人前で弾いたことないんだ・・・」

Mは弾き始めた。なんともいえない感じだ。

弾いているMの目が潤んでいる。そして涙が頬を伝わる。僕も、そして店の人も・・・

音楽歴、育った国、話す言葉、すべてが異なった人が何かを共有している瞬間だ。この何かを追い求めるためにピアノを、そしてギターを弾いているのだ。

おそらく、Mの演奏を聴くのは、これで最後かもしれないな・・・ふと、そう思う。

この「共有感覚」のようなものを知らずにいる人のほうが多いのかもしれない。音楽に携わっている人でもね。

せっかくピアノを習っているのだ、習ったのだ。何かを共有しようよ・・・そう思う。

Mが弾いてくれたのは、ディレルマンド・レイスというブラジルのギタリスト、作曲家の曲・・・

「永遠のサウダージ」という曲だった・・・

スペインに来てよかった・・・

kaz



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