ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

タスマニアの少女 

 

中村紘子著の「ピアニストという蛮族がいる」という本の中に、アイリーン・ジョイスについて割かれた章がある。その中でアイリーン・ジョイスの演奏について、このように書かれている。

「これはもうなんと言ったらいいのだろう。ホロヴィッツを髣髴とさせるような硬質でクリアな音質とスピード感、ほとんどペダルを使用しないで縦横無尽に弾きまくる自由闊達さ・・・私は昨年、チャイコフスキー・コンクールに始まってショパン・コンクールに終わる4つの国際的大コンクールの審査で延べ600人に近い若手ピアニストの演奏に接したが、その中にアイリーン・ジョイスが示したほどのクリスタル・クリアな超絶技巧と音楽的魅力を備えた若者が一人でもいたであろうか」

現在の日本で、ユジャ・ワンやマルタ・アルゲリッチのような、どこか閃光的な才能を持つ女流ピアニストが語られる時に、アイリーン・ジョイスの名前が挙がることはない。彼女の名前さえ知らない人がほとんどかもしれない。たしかに昔活躍した人ということで、演奏スタイルの変換・・・のような理由がそこにはあるのかもしれないが、もしかしたら、もしかしたら、アイリーン・ジョイスというピアニストが絶世の美女だった・・・ということが理由の一つであったかもしれない。クラシック音楽という、最もビジュアル的なものに左右されないはずの高尚な(?)芸術で、美貌ゆえに正統評価されなかった人が存在していた・・・

アイリーンはタスマニア島の自然の中で育った。極貧のため、テント生活をしていた。父親は金鉱を巡ってほとんど帰ってこないため、母子家庭のようであった。でもアイリーンはタスマニアの自然とともに成長していった。野生のカンガルー、トゥインクルだけが唯一の友達だった。レコードなど、音楽など聴いたことはなかった。タスマニアの自然の音だけが彼女を育てていった。

ある時、アイリーンは山で一人の男と出会う。この男はダニエルといい、どこか世捨て人のようであったが、深い教養を持っていたらしい。ダニエルは粗末で小さなハーモニカを吹いた。このダニエルのハーモニカがアイリーンにとって、生まれて初めての音楽的体験だった。やがてアイリーンはダニエルからハーモニカを譲り受け、自分で吹くようになる。

「ああ、ここにピアノがあればなぁ・・・もっと素晴らしい音楽を奏でられるのに」「ピアノって?ハーモニカみたいに吹くもの?」「違うよ。もっと大きくて複雑な楽器さ。こうやって指で弾くんだ」「ふーん・・・」ピアノを見たことがなかったアイリーンは、ピアノというものを想像することができなかった。

やがてアイリーンはオーストラリア本土に渡る。そこで一家は初めて屋根のある家に住めることになった。街では修道女がピアノを教えていた。窓の外からレッスンの様子を覗き込むアイリーン。「ああ、これがダニエルおじさんが言っていたピアノというものなんだわ。なんて色々な音が鳴るのかしら・・・」

いつも窓の外から覗いている少女がいる、ピアノを習いたいのかしら?でもボロを着てるし、レッスン代なんて払えないんじゃないかしら?「ねぇ、あなた・・・ピアノ習いたいの?ピアノが好きなの?」

「とんでもない、6ペンスだなんて、食べていくのがやっとなのよ。夢みたいなこと言ってるんじゃないの」アイリーンはピアノを習う夢をどうしても叶えたかった。アイリーンは街で得意なハーモニカを吹いた。人々がコインを投げ入れてくれた。その硬貨は6ペンスになった・・・

やがてアイリーンの腕前は街の修道女の手に負えないほどになっていった。「どうしましょう?才能ある子ね。もっといい先生を紹介しなくては」「シスター、私もそう思います。でもあの一家にはお金がありません。どうしたら・・・」

街の人々がアイリーンのために義援金を集め始めた。「アイリーンのピアノの才能は大したものらしい。貧しいのはあの子の責任ではない。我々が少しでも助けられるのでは?なあ、そうしないか?あの子がピアノを続けることができるように・・・」

順調に才能を伸ばしていくアイリーン、この時二人の音楽家がアイリーンの才能を認めている。一人はパーシー・グレインジャー、そしてもう一人がウィルヘルム・バックハウス。「ぜひ若いうちに本場ヨーロッパで勉強しなさい」

アイリーンのために街中の人々が協力した。「アイリーン・ジョイス・ファンド」なるものも設立された。14歳のアイリーンはドイツ、ライプツィヒに旅立つことになる。唯一の友人、カンガルーのトゥインクルをダニエルおじさんに託して・・・

続く

kaz




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