ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

1mm差の表現 

 

ハイフェッツ症候群という言葉がある。ヤッシャ・ハイフェッツの演奏が、あまりにも完璧で素晴らしいので、同時代のヴァイオリニストがやる気を失ってしまったことからきている。自分なりに努力をして頑張ったかな、いい演奏に近づけたかなと思っていても、ハイフェッツの演奏を聴いてしまうと、あまりの違いを感じる・・・自分などが努力なんかしてどうなる?

ハイフェッツ以後、たとえばパールマンやズーカーマンなどが登場した時にも同じようにハイフェッツ症候群になってしまった人も多かったのではないかと想像する。もう故人だが、ハイフェッツ症候群になってしまった人を僕も知っている。憧れのジュリアード音楽院、自分も頑張れば世界に羽ばたけるかもしれないという思い、でも同じガラミアンクラスのピンキー(ズーカーマンの愛称)の演奏を聴いた時、そのすべての希望、自信が崩壊してしまった。「こいつは自分が一生かかっても成し遂げられないようなことを、楽々とこなしている」と。絶対に越えられないような何かを持っている。輝きをすでに持っている。自分はこいつを超えることは絶対にできないと細胞レベルで感じてしまった。「ハドソン河に飛び込んでしまおうか?」「楽器など売ってしまって違う道に進むべきだろうか?」

それほどの圧倒的な演奏力の差、能力の差を感じてしまう。まさしくハイフェッツ症候群・・・

このようなことはあるだろうか?たしかにパールマンやズーカーマンのようなレベルの学生が同じクラスに存在していれば、そのように感じてしまうかもしれない。

この動画、若かりし頃のズーカーマン。圧倒的な演奏力というものを感じる。技巧が冴えわたっていて、輝きを持っている。でも、技巧という意味、単純な技巧という意味では、日本の学生コンクールレベルでも「達者に弾ける」という人はいるだろうと思う。でも、この時代の勢いさえ感じるようなズーカーマンのように弾ける人はいないだろうと思う。

何が違うのか?大雑把に言えば、音楽性が異なる。才能・・・なのかもしれないが、僕は音楽性だと思う。1ミリの差の強調があるかないか、曲の中で「この部分は強調しなければいけない」みたいな聴かせどころというか、ポイントのような箇所がある。調が変化したりとか、微妙なところ。そこを絶対に逃さないような「したたかさ」がこのズーカーマンの演奏にはある。

表面上は同じように弾けていても、大事な、かつ微妙な箇所の強調が欠けていると、ただ「見事に弾いていますね」とか「あら、上手なんじゃない?」で終わってしまう。実際、聴かせどころを、まるで事務処理のようにサクサクと弾き進めてしまう人は実に多い。コンクールなどでは活躍できるかもしれないし、難関校に合格はするかもしれないが、ズーカーマンにはなれない。なによりも不思議なのは、強調のない演奏は聴衆を惹きつけることができない。

上手い、下手・・・ではないのだ。関係はあると思うが、上手いけれど心に入ってこない演奏ってありませんか?この種の演奏って、どこか事務処理・・・というのは言い過ぎだとしても、なんだかサクサクと物足りなくないですか?

強調できているか、作曲者が込めた些細な場所を逃していないか、感じとれるか・・・

ハイフェッツ症候群というものは存在すると思う。仮に僕がヴァイオリン専攻の学生かなにかだと仮定したら、このズーカーマンの演奏を聴いてしまうと、「地道に今日も基礎練習、スケールに励みましょう」とは思えなくなるのではないかと思う。「どうせ無駄じゃーん?」みたいな?

「まっ、プロになるわけでもないんだし・・・」「今さらジュリアード音楽院に留学するわけでもないんだし・・・」「アマチュアなんだから楽しければ、それなりに弾ければいいんだし・・・」

たしかにそれもあると思う。でも自分自身で聴き手として「聴かせどころ」を感じてしまったら?聴き手として、ある演奏に心を奪われてしまったということは、その演奏者の強調を細胞レベルで感じたということではないだろうか?

聴き手としての感動にプロもアマチュアもない。「私はプロの聴き手だから」とか「私はアマチュアの聴き手だから、感動度は30パーセントしか感じなくてもいいわ」なんていうことはない。「あっ、この演奏素敵・・・」と感じてしまうことができるのであったら、それは感じてしまったのだ。

感じることと、自分の演奏というものを、鮮やかに分離できる人なんているのだろうか?心の底から「あのようにもし弾けたら」と思わない人なんているのだろうか?

そこが苦しいところなんだよね・・・

kaz




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