ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

ショパンはポーランド人だった 

 

僕だけではないだろうと思うが、ショパンの曲には憧れのような想いを持っている。なんとも素敵なサウンド。ピアノを再開した当初は、ショパンの曲も弾いていた。憧れの曲にチャレンジのような?

「あまりショパンを弾いてくれない」などと言われたこともある。別に憧れが消えたわけではないが、いつの頃からか、ショパンから遠ざかっている。全く弾かないわけではないけれど、なんとなく「お素敵ショパン」というものに違和感を感じ始めた。むろん、素敵にさえ弾けないわけだが、ショパンって素敵なだけだろうか?どこか胸がキュンとするような大衆性のようなもの?それだけがショパンなのであろうか・・・と。

「僕にはどこにも居場所がないんだ」かつてのポーランド人の友人の言葉。この言葉を日本人の僕は理解することはできないが、ショパンもそのように感じていたのではないかと思ったりもする。愛憎交えた祖国への想い?それは郷愁のような淡いものではなく、凄く重く深刻なもの。

「ポーランドという国は、かつては懐が深かったんだ。行き場のないユダヤ人たちを迎えた国だからね。大国の餌食になり、翻弄され、ユダヤ人たちを抱えたことで、この国にはありえないような悲劇が繰り返されるようになった」友人、Hはそのような意味のことを僕に言ったことがある。今でもこの言葉の意味は表面的にしか理解などできてはいない。

「祖国だからね、もちろん愛しているさ。でもポーランドはもうダメだ。憎しみさえ感じている」祖国は愛しているが、ポーランド国家を憎んでいるということだっただろうか?自由を求め、祖国を捨てる。そして新天地で「居場所がない」と思う。その重さを僕は理解できないが、ショパンの曲にはその重さを感じる。なので「わっ、きゃっ、素敵!」のような感覚で弾くことができない。

個人的な嗜好としては、ポーランド人のピアニストのショパンに惹かれる。どちらかと言えば、ショパンの正統性、民族性、たとえばポロネーズはこのように、マズルカはこのように弾くのだという香りのするピアニストよりは、ポーランド人でありながら、国外に逃れ、外から祖国を愛憎交えて見つめたであろうピアニストたちの演奏に惹かれる。パデレフスキ、フリードマン、ローゼンタール・・・むろん、彼らの生きた時代というものの特性、具体的にはロマンティシズムというものを、より感じるが、Hの言葉ような「居場所がないんだ」とか「祖国への愛、そして憤り」のようなものをも感じる。感情をぶつけ、昇華させると、それは悲哀に満ちたロマンティックな演奏になるのだろうか?

マリラ・ジョナスのショパン、美しくロマンティックだ。でも最も通俗的であるとされている遺作のノクターンの演奏においてさえ、「素敵」とか「ロマンティックね」だけではない、物凄い感情をぶつけているように感じる。

マリラ・ジョナスは名匠トゥルチンスキに師事しているので、ショパン、ポーランドの正統性というものを最も引き継いだピアニストともカテゴライズできるとは思うが、その演奏は「これが正しいショパンなのです」以上のものを感じる。外から祖国を見つめた視点、感情が加味されているというのだろうか?

彼女は強制収容所から脱走した経験を持つ。家族は全員惨殺された。徒歩でベルリンまで逃れる。ベルリンのブラジル大使館に保護を求めたのだ。ブラジルに渡った彼女は、もちろん命だけは助かったわけだが、心は閉ざしてしまった。ピアノも弾かなくなってしまった。そんな彼女に手を差し伸べたのが、アルトゥール・ルービンシュタイン。彼は国際人というイメージが強いが、彼もポーランド人、誇り高きポーランド人である。同じポーランド人としての誇り、血が彼女を救ったのではないだろうか?

ルービンシュタインは自分のリサイタルのリハーサルに彼女を誘う。「自分の音を客席で聴くことはできないからね。客席での音を聴いてみたいんだ。君、ちょっと弾いてみてくれないか?」

強制収容所以来、ピアノなど弾いていなかったはずだ。それよりも、心を閉ざしてしまった彼女にとって、キーを触る瞬間までにどのような心の動きがあったのだろう、それを思うと胸が熱くなり、そして痛くなる。

数年後、彼女はカーネギーホールでカムバックした。ルービンシュタインの推薦があっても、無名のポーランド女性のリサイタルなど誰が聴くだろう?会場は無料席にチラホラと聴き手がいるだけというガラガラの状態だった。でも一人の批評家が彼女の魂を聴いたのだ。「こんなショパンをかつて聴いたことがあっただろうか?」

あまりにも収容所での経験、そして逃亡生活が彼女のすべてを奪ってしまったのだろうか?マリラ・ジョナスはその後、48歳という生涯を閉じることになる。

素敵なだけではないショパン、ポーランドを感じるショパン、愛憎を感じるショパン、そこがショパンの難しさなのかもしれない。

kaz




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