ロシア人が黒人霊歌?
アフリカ系アメリカ人演奏家の活躍を考えてみた時、クラシックの分野よりも、ジャズとかゴスペルのような音楽での活躍がより目立つような気がする。その理由を考えてみると、いろいろと興味深いこともあるだろうと思うが、ここでは「黒人霊歌」について考えてみたい。黒人霊歌でもクラシック歌手がコンサート、あるいはアンコールで歌う黒人霊歌。
どのような歌手を連想するだろう?僕はアフリカ系アメリカ人歌手しか思いつかない。東洋系や白人の歌手も歌っているとは思うのだが、思いつかない。レオンタイン・プライス、マーティナ・アーロヨ、ジェシー・ノーマン、キャスリーン・バトル、バーバラ・ヘンドリックス、我が家にあるクラシック歌手による黒人霊歌のCD。全員がアフリカ系アメリカ人。これは偶然ではないような気がする。
やはり、歌手にとって黒人霊歌はシューベルトやフォーレの歌曲を歌うのとは、なにか異なるのだろう。言語の問題だけでもないような気がする。特種な音楽?どこか本場の感性というものが関係してくる?本場というか、人種としての誇りとかルーツとか?
「時には母のない子のように」黒人霊歌では有名な曲だろうと思う。メロディーもハーモニーもどこか哀しげだ。でも歌詞が凄い。
時々、母のいない子どもになったような気がする
故郷からも遠く離れて・・・
時々、もう自分は長くは生きてはいられない気がする
天国に昇っていくんだ・・・
1800年代、黒人奴隷の平均寿命は30歳そこそこであったとされる。彼らは自分たちの誇りと哀しみを歌で伝承していったのだ。霊歌なのでキリスト教との関係を深く教会で歌われることが多かったが、労働歌として歌われたことも多かったらしい。
やはり、この世界はアフリカ系アメリカ人にしか入り込めない世界なのだろうか?
バーバラ・ヘンドリックスは自分のルーツでもある黒人霊歌についてこう語っている。
「黒人霊歌には苦しみと希望が力強く歌われています。祖国から引き離され、奴隷として虐げられ、不当な、非人間的な扱いを受けてきた暮らしの中から生まれたものです。人権を侵害されてきた人々の歌なのです」
バーバラ・ヘンドリックスは僕の知る限り2枚の黒人霊歌のCDを録音している。1枚目はピアノとの共演、2枚目はモーゼズ・ホーガンとの共演で、一枚目よりも本格的というか、宗教色が強いというか、ゴスペル色が強いものとなっている。個人的には一枚目のピアノ伴奏の方が好きだ。こちらは、クラシックの歌手のレパートリー・・・といった趣がある。そして何よりも、ピアノが素晴らしいのだ。黒人霊歌独特のキレとかリズム感とか、地の底に沈みこんでいってしまうような孤独感とか、素晴らしいピアノだ。
むろん、ヘンドリックスの歌唱も素晴らしいのだろう。もうアフリカ系アメリカ人でなければ表現できなかった世界だろうと思う。別の言い方をすれば、特殊なサウンド、世界を表出している。
やはり本場の音、黒人霊歌だものね・・・アフリカ系アメリカ人にしか表現できないよね・・・
正直なところ、僕はヘンドリックスのソプラノよりも、ピアノのサウンドに聴き惚れてしまう。むろん、ヘンドリックスも素晴らしい。でもピアノがより凄い・・・
弾いているのはどこの国の人だろう?やはりアフリカ系アメリカ人ピアニスト?
実はピアニストはロシア人なのだ。ドミトリー・アレクセーエフ。録音されたのは、たしか1980年代の初め頃だったと記憶している。まだまだ冷戦時代、鉄のソ連健在の頃だった。なぜにアレクセーエフが黒人霊歌を???アレクセーエフというと、やはりラフマニノフの演奏を連想するが、こちらはロシア人だしぃ・・・とスッキリと理解できる。でも黒人霊歌?
ヘンドリックスとアレクセーエフは、かつて共演したことがあるのだそうだ。コンサートの打ち上げか何かで、ヘンドリックスが黒人霊歌とかポップスをサラリと歌った。そしてその歌声にアレクセーエフが即興で伴奏をつけた。「なんと自由自在で素晴らしいピアノなの?正式に何かレコードを二人で作りましょうよ?」二人の黒人霊歌のレコード誕生はこうした経緯があったようだ。
伴奏譜つきの黒人霊歌の楽譜も存在する。でも多くの楽譜は歌のパートしか書かれていない。ピアノ譜はあっても、平凡というか凡庸というか、シンプルなバージョンばかりだ。おそらく、アレクセーエフは何かしらの楽譜を参考にしているのかもしれないが、ほぼ即興というか、自分でアレンジして弾いているのではないかと思う。たしかヘンドリックスが驚嘆していたのもその部分だったと記憶している。
ロシア人だろうが、人種がどうであろうが、プロのピアニストなんだから、音大(モスクワ音楽院)を卒業しているのだがら、そんなことは当たり前・・・なのかもしれないが、これは本場の音というものを考えた時には、非常に興味深いサウンドなのではないかと思う。
この演奏を聴く限り、本場の演奏なんて存在しないようにも感じる。
これは「鋤を握り続けろ」という曲。
鋤を握り続けろ
マリア様は金の鎖を持っていた
輪の一つ一つにイエスの名がある
鋤を握り続けろ 絶対に離しちゃだめだ
天国に行きたいんだろう?教えてやるよ
鋤を握り続けるんだ
福音の鋤を手に持っているだけでいい
真っ直ぐに約束の地へ連れて行ってくれる
鋤を握り続けろ
ピアノ・・・素晴らしくないですか?
kaz

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どのような歌手を連想するだろう?僕はアフリカ系アメリカ人歌手しか思いつかない。東洋系や白人の歌手も歌っているとは思うのだが、思いつかない。レオンタイン・プライス、マーティナ・アーロヨ、ジェシー・ノーマン、キャスリーン・バトル、バーバラ・ヘンドリックス、我が家にあるクラシック歌手による黒人霊歌のCD。全員がアフリカ系アメリカ人。これは偶然ではないような気がする。
やはり、歌手にとって黒人霊歌はシューベルトやフォーレの歌曲を歌うのとは、なにか異なるのだろう。言語の問題だけでもないような気がする。特種な音楽?どこか本場の感性というものが関係してくる?本場というか、人種としての誇りとかルーツとか?
「時には母のない子のように」黒人霊歌では有名な曲だろうと思う。メロディーもハーモニーもどこか哀しげだ。でも歌詞が凄い。
時々、母のいない子どもになったような気がする
故郷からも遠く離れて・・・
時々、もう自分は長くは生きてはいられない気がする
天国に昇っていくんだ・・・
1800年代、黒人奴隷の平均寿命は30歳そこそこであったとされる。彼らは自分たちの誇りと哀しみを歌で伝承していったのだ。霊歌なのでキリスト教との関係を深く教会で歌われることが多かったが、労働歌として歌われたことも多かったらしい。
やはり、この世界はアフリカ系アメリカ人にしか入り込めない世界なのだろうか?
バーバラ・ヘンドリックスは自分のルーツでもある黒人霊歌についてこう語っている。
「黒人霊歌には苦しみと希望が力強く歌われています。祖国から引き離され、奴隷として虐げられ、不当な、非人間的な扱いを受けてきた暮らしの中から生まれたものです。人権を侵害されてきた人々の歌なのです」
バーバラ・ヘンドリックスは僕の知る限り2枚の黒人霊歌のCDを録音している。1枚目はピアノとの共演、2枚目はモーゼズ・ホーガンとの共演で、一枚目よりも本格的というか、宗教色が強いというか、ゴスペル色が強いものとなっている。個人的には一枚目のピアノ伴奏の方が好きだ。こちらは、クラシックの歌手のレパートリー・・・といった趣がある。そして何よりも、ピアノが素晴らしいのだ。黒人霊歌独特のキレとかリズム感とか、地の底に沈みこんでいってしまうような孤独感とか、素晴らしいピアノだ。
むろん、ヘンドリックスの歌唱も素晴らしいのだろう。もうアフリカ系アメリカ人でなければ表現できなかった世界だろうと思う。別の言い方をすれば、特殊なサウンド、世界を表出している。
やはり本場の音、黒人霊歌だものね・・・アフリカ系アメリカ人にしか表現できないよね・・・
正直なところ、僕はヘンドリックスのソプラノよりも、ピアノのサウンドに聴き惚れてしまう。むろん、ヘンドリックスも素晴らしい。でもピアノがより凄い・・・
弾いているのはどこの国の人だろう?やはりアフリカ系アメリカ人ピアニスト?
実はピアニストはロシア人なのだ。ドミトリー・アレクセーエフ。録音されたのは、たしか1980年代の初め頃だったと記憶している。まだまだ冷戦時代、鉄のソ連健在の頃だった。なぜにアレクセーエフが黒人霊歌を???アレクセーエフというと、やはりラフマニノフの演奏を連想するが、こちらはロシア人だしぃ・・・とスッキリと理解できる。でも黒人霊歌?
ヘンドリックスとアレクセーエフは、かつて共演したことがあるのだそうだ。コンサートの打ち上げか何かで、ヘンドリックスが黒人霊歌とかポップスをサラリと歌った。そしてその歌声にアレクセーエフが即興で伴奏をつけた。「なんと自由自在で素晴らしいピアノなの?正式に何かレコードを二人で作りましょうよ?」二人の黒人霊歌のレコード誕生はこうした経緯があったようだ。
伴奏譜つきの黒人霊歌の楽譜も存在する。でも多くの楽譜は歌のパートしか書かれていない。ピアノ譜はあっても、平凡というか凡庸というか、シンプルなバージョンばかりだ。おそらく、アレクセーエフは何かしらの楽譜を参考にしているのかもしれないが、ほぼ即興というか、自分でアレンジして弾いているのではないかと思う。たしかヘンドリックスが驚嘆していたのもその部分だったと記憶している。
ロシア人だろうが、人種がどうであろうが、プロのピアニストなんだから、音大(モスクワ音楽院)を卒業しているのだがら、そんなことは当たり前・・・なのかもしれないが、これは本場の音というものを考えた時には、非常に興味深いサウンドなのではないかと思う。
この演奏を聴く限り、本場の演奏なんて存在しないようにも感じる。
これは「鋤を握り続けろ」という曲。
鋤を握り続けろ
マリア様は金の鎖を持っていた
輪の一つ一つにイエスの名がある
鋤を握り続けろ 絶対に離しちゃだめだ
天国に行きたいんだろう?教えてやるよ
鋤を握り続けるんだ
福音の鋤を手に持っているだけでいい
真っ直ぐに約束の地へ連れて行ってくれる
鋤を握り続けろ
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