ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

「クロリスに」 

 

僕がアーンの歌曲を知ったのは、友人であったテノール歌手の練習につきあった時。その人は、もう亡くなってしまっているのだが、東北から上京し、苦学の末、東京芸術大学を卒業した人だ。むろん、国立の学校なので私立の音大よりは経済的には楽だったのかもしれないが、朝の4時からビル清掃のアルバイト、学校を終えてからもアルバイトをしながら勉強を続けていた。

「僕は声がないからね、アーンみたいな曲を歌って勝負するしかないんだ」芸大には大きな声の学生はいくらでもいたらしい。

「kazさん、ちょっと合わせてくれないかな?」彼のような苦学生の場合、伴奏合わせの度にピアニストに謝礼をしなければならないことが大変だったみたいだ。僕のようなアマチュアの「なんちゃってピアノ」で彼の役に立つのならと、何度か練習の合わせをしたことがある。

アーンの「クロリスに」という曲もその時に一緒に合わせた曲だ。ピアノのパートが非常に難しい。音が多いわけではないのだが、「ピッシュナですか?」みたいな弾きにくい音型があったりするのだ。歌はピアノ以上に難しかったみたいだ。

「ダメだ・・・こんな声を出しちゃダメだ」「全然曲にならないよ・・・」僕は初めて「できない」ということで人が泣くのをその時に見た。そして感じた。「アーンの曲って素敵なんだ。でも難しいんだ」と。

アーンの繊細さに苦労するのは友人だけではないようで、基本的に男性歌手でアーンを得意としている人は多くはない。むろん、ゲッダのような喉と感受性を持っていれば、それはそれは素晴らしい「アーンの世界」を男性でも声で具現化できるのだろうが、少しでも不純物が混ざると崩壊してしまうような世界なのだ。

この「クロリスに」を聴くと、どうしても友人のことを想い出してしまう。泣きながら練習していた彼を・・・

どこか蒸留水のような不純物が皆無のような声と表現が要求されるのではないだろうか?そうしないと陶酔のアーンの世界が崩壊してしまう・・・

カウンターテナーを聴くことはあまりないのだが、物凄く好きな歌手もいる。ここで歌っているフィリップ・ジャルスキーは、そこまで個人的には夢中になるような歌手ではないのだが、アーンの歌曲、特にこの「クロリスに」などは素晴らしいと思う。不純物ゼロの声で、官能的に、そして艶っぽく・・・アーンの世界の難しさなのかもしれない。

kaz




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