ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

空港 

 

初めは投函したはずの手紙が相手に届かないというような小さなことだった。さらに自宅、大学の研究室に誰かが侵入した形跡を発見するようになった。そして自宅が荒らされるようにもなった。「命が惜しくはないのか」という脅迫文も受け取った。この自由のない国で尊厳を求めるのは無理なのか・・・

心配なのは年老いた父のことだ。自分はいい。集会で演説し大学でビラを配る。危険なことだが、自分の信念だ。でも父は?父は自分の危険な行動を批判することは一切なかった。何も言わなかった。息子が何をしているのかは分かっていたはずだ。

「お前の信じるように行動しなさい。自分を曲げてはいけないよ・・・」父はそう言った。でもこのままでいいのだろうか?この国はもう変わらない。この国はもう終わりだ・・・

「この国を出なさい。アメリカに自由があるのだったら行きなさい。後悔してはいけないよ。自分の道を進みなさい」

「そうしたら僕は二度とポーランドには戻れない。入国できない。父さんはどうするんだ?母さんが生きていればともかく、父さんは一人ぼっちになるんだ。そんなことはできない」

「私は年老いた平凡な市民だ。お前とは違う。静かに暮らしていくさ。お前がここで朽ちていくのを見る方が一人になることよりも辛いさ。私はお前に何もしてあげられないからね。一人息子だ。自由に生きて欲しい。自分に正直に生きて欲しい。自由がアメリカにあるのだったら私のことはいいから行きなさい!」

厳しい父だった。厳格な父だった。かつて収容所で親戚、家族のすべてを殺された父。一人生き残った父。やがて結婚し、自分が生まれた。父は自分の家族を失うことを極端に恐れた。父の生立ちを考えれば無理もないことだ。

「ここには自由はない。行きなさい。アメリカに・・・」

空港まで父は見送りに来てくれた。ゲートで別れの挨拶をする。でも何を言っていいのか、言葉が出てこない。

「あの飛行機だろ?時間なんだろ?私のことは心配せんでいい。さあ、行きなさい」

「父さん・・・」

「さあ、行くんだ・・・そして絶対に振り返ってはいけない。そのまま飛行機に乗るんだ。振り返るんじゃない。いいな?さあ、行きなさい・・・」

自分に言い聞かせる。「振り返るんじゃない。前だけを見て歩くんだ・・・」でも最後の瞬間、後ろを振り返る。もう父の姿はそこにはなかった・・・




「状況」は言葉でも説明できる。でも「感情」まで説明することはできない。でも音楽は「感情」までも説明してくれる。

だから音楽を求める。

kaz




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