ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

秋のスケッチ 

 

「なんで天気の話なんかするのよ?私たち夫婦の話をしているのよ。なんで私を拒絶するの?私はここにいるのよ?辛いのは、あたなだけじゃない。私だって同じだわ。あの子を愛していたのは、あなただけじゃない。どうして心を閉ざしたままなの?いつになったら昔のあなたに戻るの?」

「こういう性分なんだ・・・」

「ひどい人・・・」

妻は離れていった。あの子を殺したのは俺なのか?なぜ俺だけが助かったのだろう、それを責めない日はなかった。俺が代わりに死ねばよかったんだ。運転していたのは俺だったんだから・・・

なぜ娘だったのか・・・

「あなたを責めてなんかいない。誰も責めない。一番辛いのは、あなたなんだから・・・」妻はそう言った。でも責めていただろう?俺のことを責めていたろう?言葉にはしなかっただけで・・・

それはそうだろう。俺自身が俺を一番責めているんだから・・・


「いい曲だな・・・」

「そうでしょ?秋のスケッチっていうのよ」

「そうか・・・また随分と大人っぽい曲だな・・・」

「私・・・もう大人だもん・・・」「そうか?そうだな・・・」

まだ7歳だったんだ。突進してくる対向車を避けられなかった。でも避けられなかったのは俺の責任だ。俺がもっと気をつけていれば・・・そうしていればあの子は死ぬことはなかったんだ。


生きる意味なんてあるのだろうか?俺は一人ぼっちだ。でもそれだけのことをしてしまったのかもしれない。

「パパも天国に行っていいかな?」

娘は答えてはくれない。でも一瞬だが娘の声が聴こえた。「秋のスケッチっていうの・・・秋のスケッチっていうの・・・」



あの子はよく俺に言っていた。「パパもピアノ弾けばいいのに・・・」

「昔はバンドでサックスを吹いていたんだぞ。キーボードだって少しやっていたんだ」

「なんでもう弾かないの?」

夢では食べてはいけない・・・そう答えるのがなぜか恥ずかしかった。とても恥ずかしかった。


「あの子の想い出だけに生きるの?あなたにも人生があるのよ?あの子は死んだのよ?」

「忘れろというのか?」

「過去だけに生きている。あなたは過去だけしか見ていない・・・」


このままブレーキを踏まずに走り続けたら確実に死ねるだろう。このまま・・・

「パパも天国に行く。待っていてくれるね?」

また声が聴こえた。「秋のスケッチっていうの・・・秋のスケッチっていうの・・・」


娘の部屋のピアノの前に座った。娘の部屋はそのままにしてある。何も変えていない。妻は俺のそういうところが耐えられなかったのだと言う。

「秋のスケッチ・・・」

声にだして言ってみる。

鍵盤に指を置いてみる。あの子の楽譜は落書きだらけだ。落書きではないな。あの子なりの絵なんだ。落ち葉が舞っている・・・

「秋のスケッチっていうの・・・」

「そうだな・・・本当に秋のスケッチだね?落ち葉が舞っているんだね?」

弾きながら涙が溢れた。乗り越えられそうな気がした。でも俺は乗り越えるのを恐れている・・・

「パパ・・・まだ来ないで。まだ来ちゃだめ・・・」

ギロックの音色と共に娘の声が聴こえた。

「そうだね・・・まだだめなんだね?」

俺は秋のスケッチを弾き続けた・・・




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