ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

望郷と熱情 

 

世界大戦、さらにはロシア革命など、世情が不安定になり、多くの芸術家がヨーロッパ、ロシアから主にアメリカに渡った。その多くはユダヤ人だった。ユダヤ人であるがために、祖国を捨てなければならなかった。

祖国を捨てる・・・この感情は移住後も、複雑なものを移住者に背負わさせることになるのではないかと僕は想像する。ルームメイトのHも祖国を捨てアメリカに自由を求めた移住者だった。祖国には父親がいた。彼の父親は大戦中に親戚、家族のすべてを殺されている。Hの父親だけが強制収容所からの生き残りだった。自分が家族を持ったときに、異様なまでに自分の家族を失うということをHの父親は恐れた。「怪我をするのでは?」「危険なことをして命を落とすのでは?」平和な時代になっても、その想いは消せなかったという。Hが父親にだけ移住のことを話した時、以外にも父親は反対しなかったという。「ポーランドに自由がないと思うのなら、それがアメリカにあるというのなら、お前の好きなようにしなさい。それがお前の幸せであるのならば・・・」

Hは生涯、「捨てた・・・」「逃げた・・・」という思いを抱いていたように思う。祖国は捨てられるものではなかった。そのような意味で、Hは生涯苦しんでいたのかもしれない。彼は詳しいことは話してはくれなかったし、話してくれても僕は理解できなかっただろうと思う。

移住した音楽家、ハイフェッツはフォスターやガーシュウィンの曲を編曲し、ホロヴィッツは「星条旗よ永遠なれ」を華麗なピアノ曲に編曲した。でも彼らはアメリカ人という感じではない。彼らは生涯ロシア人だったのではないかとも思う。祖国は一生背負うものなのかもしれない。

日本に移住した音楽家もいる。ピアノだとレオ・シロタとかレオニード・クロイツァーのようなピアニスト。このような人たちは正当な評価を現在されているのだろうか?結構「誰、それ?」なんていう日本人も多いのではないだろうか?

ヴァイオリニストのアレクサンドル・モギレフスキーも日本移住組の音楽家だ。さすがにヴァイオリンを弾く人で「モギレフスキー?誰?」なんて言う人はいないと思いたいけれど、この人の演奏をじっくりと聴いたことのある人は意外と少ないのかもしれない。

例えば、ハイフェッツなどと比較をすれば、モギレフスキーの国際的な認知度は、かなり劣ってしまっても仕方がないように思う。ある意味、アメリカではなく日本で活動したということでそれは仕方がないように思う。彼は多くの日本人の弟子を育てた。現在の日本のヴァイオリン界の根底を成した人たちを育てたのだ。諏訪根自子とか・・・

日本という極東の地に留まったことで、国際的な知名度が低くなってしまったのだとしたら、その認識を正していき、世界に知らせていくのは日本人の役目だとも思うのだが、当の日本人が「知らない」とか「二流だから日本で教え、活動したのだ」などという文章を書いたりしているのには憤りさえ感じる。実際にモギレフスキーの演奏を聴いたことがあるのだろうか?

彼ら日本移住組が日本に留まった理由としては、当時の世情があまりにも不安定になり、移動そのものが困難になったということもあるだろうと思う。演奏旅行で訪れた日本という地から動けなくなってしまった・・・

もしかしたら、日本で暮らすということは最初は彼らの希望ではなかったのかもしれない。アメリカとは異なり、彼らの出身地、東欧やロシアとは習慣から文化から何もかも異なっていただろうから。ユダヤ人・・・と特別に扱われることはなかったかもしれないが、外国人ということで、かなりの苦労もあったのではないかとも想像できる。

でもこうも想像したりする。彼らが日本に留まった時、むろん日本は現在のような国ではなかった。情報も乏しかっただろうし、日本人の演奏レベルも高かったとはいえなかったのかもしれない。今のように毎月何人も海外の演奏家が来日・・・なんてこともなかっただろう。でも西洋音楽に飢えている人は多かったのだと想像する。移住組の演奏家の音色に酔い、初めてとも思えるカルチャーショックを味わった。「これが西洋音楽?なんて素晴らしい・・・」「私たちにもこんな演奏のできる日がくるのだろうか?」「果てしない道なのだろう・・・でも進まずにはいられない」

移住組が接した日本人の弟子たち、彼らの瞳は火のように燃えていたのではないかと想像する。「自分も近づきたい、自分も少しでいいから触れたい・・・」

その当時の日本人たちの火のような想いが移住組の音楽家に伝わった・・・そして彼らは日本人に自分たちの文化を伝えた・・・

だから彼らは日本に留まった・・・

アレクサンドル・モギレフスキーは日本で暮らし、日本で活動し、そして日本人の弟子を育てた。そして日本で亡くなった。彼の墓は日本にあるのだそうだ。小平霊園というところに・・・

kaz



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