ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

関節炎を超えて 

 

バイロン・ジャニス ピアノ協奏曲名演奏集 4枚組バイロン・ジャニス ピアノ協奏曲名演奏集 4枚組
(2010/07/13)
ラフマニノフ、 他

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もちろん全員ではないけれど、アメリカ生まれ、アメリカ育ちのピアニストには、事故とか指の故障で活動が中断してしまった人が多いような気がする。カッチェンとかカぺルの場合は病とか事故という不幸な例だけれど、指の故障という例ではフライシャーやグラフマン、ディヒターなどがいる。バイロン・ジャニスも指の故障で演奏できなかった期間の長かった人ではないだろうか?

バイロン・ジャニスはレヴィーン夫妻に習っている。ロシアからの亡命音楽家がアメリカで自国のピアニズムを伝承し、それが生粋のアメリカ人に伝わり始めた時代のピアニストと言えるかもしれない。日本のピアノ教育の歴史はドイツの影響が大きい・・・的に大雑把な言い方をすれば、アメリカのピアノ教育界はロシアの影響が大きいらしい。たしかにカーティス音楽院やジュリアード音楽院の黄金期と言われる時代があって、その黄金期は亡命ロシア人教師(というかユダヤ人というか)たちが培ってきたものに思えてくる。

バイロン・ジャニスは、クライバーンがチャイコフスキー国際コンクールで優勝した頃、つまりソビエトの雪解け時代に、ソビエトで演奏、そして録音をして有名になったピアニストだ。ロシアの伝統がアメリカで引き継がれ、アメリカの若者がその成果をロシア本国で披露したという意味合いもあったように思う。

また、彼はホロヴィッツが直弟子にした数少ない生徒でもあった。

全盛期のジャニスの演奏で個人的に好きなのは、ラフマニノフの1番のコンチェルト。完璧なる技巧、完璧なる自信からくる演奏という印象を持つ。ただ「弾けすぎてしまう」という印象をも時には与える。ここまで完璧に楽々弾けるのだったら、さらに・・・という欲求を求めてしまうのだろうか?それとも、無意識にホロヴィッツからの伝承・・・のようなものをバイロン・ジャニスというピアニストへ求めてしまうのだろうか?ホロヴィッツの影というものは、この時代のジャニスにはつきまとったものだったのかもしれない。

バイロン・ジャニスは、アメリカの「弾ける世代」を代表するピアニストだったように思うが、いつのまにか表舞台から退くような印象を与えるようになっていった。実際に彼は指の問題を抱えていたらしい。

驚くべきことに、彼はデビュー前にある事故に遭遇し、指の一本の感覚が、もともとないのだそうだ。デビューは15歳か16歳か、とにかく非常に若くして鮮烈なるデビューをしている。ラフマニノフのコンチェルトを颯爽と完璧に弾き切ったとされているが、この時から、一本だけだが感覚のない指で弾いていたことになる。全盛期のジャニスの演奏、どう考えても、そのような状態での演奏には聴こえてこない。弾けすぎるんだよなぁ・・・とは思えてくるが。

この「感覚のない一本の指」とは別に、大きな問題を抱えることになったのだ。最初は、やはり一本の指から始まった。左手の中指から。そして指全部に広がっていった。関節炎だ。指は腫れあがり、痛みを伴い、握りこぶしを作ることもできなくなってしまった。当然、ピアノ演奏などできなくなってしまった。このことが精神的な破綻をも招いていくようになってしまった。

バイロン・ジャニスという、かつての超絶技巧ピアニストは、どこか過去の人のような存在になっていった。

どのくらいの期間、ジャニスは闇の中にいたのだろう?奇跡的に手術に成功し、再びピアノを弾き始め、録音も開始するようになった。かつての青年が老年という年齢になろうとしていた。

Byron Janis, True Romantic - Liszt, ChopinByron Janis, True Romantic - Liszt, Chopin
(1999/07/05)
Byron Janis

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奇跡的なカムバックと僕には感じられる。でも、復活後の彼を評価しない人もいる。やはり、かつての「弾けすぎるほど弾けていた」ジャニスと比較してしまうのだろうか?かつての輝きが消えてしまっていると・・・

でも考えてみれば、彼は1928年生まれのピアニストなのだ。絶頂期というか、弾けすぎ時代と比較して何になるのだろう?むしろ、全盛期の演奏に感じられた「あと少し、何かが欲しい」と感じさせたものを克服さえしていると僕は感じる。足りなかった「何か」が復活後のジャニスにはある。

そう僕が感じるのは、彼の苦難というものを自動的に演奏からの印象というものに刷り込んでしまっているからだろうか?そうなのかもしれないが、弾けるようになるまでの苦難というものは想像を絶するものだったはずだ。完全にそのことを分離させて聴くことなど僕にはできない。

これは復活後、比較的最近のジャニスの演奏。もちろん、かつての若かりし頃のように、ラフマニノフを颯爽と弾いているわけではないけれど、やはり僕はこの演奏は、奇跡と感じる。暗譜で弾いているという事実だけでさえ凄いことなのではないだろうか?

彼は闇の中にいた時に「もう弾けない・・・」と思ったのかもしれない。

でも「弾けた」のだ。アメリカ人であれば、バイロン・ジャニスというピアニストのことは知っているし、彼の苦難の道のことも知っている。この拍手は同情の拍手なのだろうか?そうではないように思う。

kaz



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