ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

明るい涙 

 

このブログには何回か書いたことがある、もう亡くなってしまったポーランド人の友人H・・・

彼は亡くなる直前に楽譜を送ってくれた。それは、生前に彼がよくオンボロのアップライトピアノで弾いていた曲の入った楽譜だった。それはサミュエル・コルリッジ=テイラーの「24の黒人のメロディー Op.59」の楽譜だった。彼は、アルコールが入ると、決まってこの曲集の中の「深い河」を弾いた。彼はピアノを正式に習ったことはなかったから、その演奏は、どこか自己流のものだったけれど、いつも遠くを見つめるような眼差しで「深い河」を弾いていた。もちろん、この黒人霊歌は奴隷として生きていかなければならなかった黒人たちの魂の叫びでもある。当時の奴隷たちの平均寿命は約32歳ということであったそうだから、それだけを知っただけでも胸が苦しくなるような感覚を僕は持つ。

H自身も、祖国には絶対に帰ることができなかったから、当時の奴隷たちの心情というものと、自分のそれとを、どこか重ねていたのではないかと僕は想像する。

「深い河」

深い河、俺のふるさとはヨルダン河の向こうだ。深い河、神様、俺は河の向こうの集会所に行きたい。ああ、行ってみたいと思わないか?あの安らぎに満ちた希望の地に!ああ、深い河、神様、俺はこの河を越えて行きたい・・・

サミュエル・コルリッジ=テイラーなどという人の編曲作品のCDなど、日本では手に入らないと思っていたのだが、ある日本人ピアニストが録音していた。

Dear America,IIDear America,II
(2009/11/16)
江口玲

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江口 玲というピアニストは、僕の好きな数少ない日本人ピアニストの一人で、彼が演奏し録音をしていたということは、驚きでもあり、喜びでもあった。

このCDは、選曲にしても、ホンキートンク風に調律されたピアノを使用しているということにしても、クラシックのCDとしては、かなり特殊というか、演奏者の強い信念を感じさせるCDであるように思う。基本的には、明るい浮かれるような気分の曲が選ばれている。ラグタイムとかね。でも、そこには、かつて虐げられてきた黒人たちの叫び、そして無言の涙が表現されている。

彼は、このCDで「スモーキー・モークス」という曲を録音している。この曲はエイブ・ホルツマンという人が1899年に出版したケークウォークの代表的な曲。なんとも、底抜けに明るい曲だ。ただ、このCDの解説によれば、Smokyとは、煙ですすけて黒くなったという意味で、黒人を示す蔑称でもあるのだという。また、Mokesとは、ロバとか駄馬という意味から、役立たずの家畜を意味し、これも黒人を示す蔑称であるのだと言う。

江口氏の演奏ではないのが残念ではあるけれど、この曲の動画を貼りつける。動画(というか静止画だが)は、この曲の出版時の楽譜の表紙で、左上の方にこのように印刷されている。いわゆる広告なのだが、「Published also as a song with humorous darky text」と印刷されているのだ。「滑稽なダーキーの歌詞がついた歌も出版されている」と。この「ダーキー」という言葉は現在では絶対に使ってはいけない言葉の一つでもある。「色の黒い奴ら・・・」

このCDの解説書は江口氏本人が執筆しているのだが、彼はこのように書いている。

「アメリカで生活していて、時折感じることがある。差別される側にしか感じられない小さな棘、それは今でも確かに存在している」

「アメリカの音楽は明るい。この明るさの源が何であるのか?どんな状況にあっても、自分の求める救いは必ずある、という希望。どんな境遇でも笑いで吹き飛ばそうとする強さ。しかしその背景にある事実にしっかりと目を向けてみれば、明るさだけではない何かが見えてくる。その何かが見えたときに、アメリカの音楽にある、ただ者ならぬ強さに気づく。これこそアメリカという国、そのものではないか?」



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