ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

「私を救ったショパンのバラード」 

 

本日から11月の演奏会の曲の譜読みを始める。ショパンの作品がほとんどになる。11月なので、まだまだ先のことのような気もするが、演奏会で弾くショパンの曲ばかりを練習するわけでもないし、自分にとっては新曲ばかりになるので、計画性を持って取り組んでいかなければならないと感じている。

当日演奏する曲の中で、最も苦労するだろうなと感じているのがバラードの1番。まずはメカニカルな要素としても非常に難しいところが満載だと思うし、特にコーダは難渋だと感じる。それに加えて、バラードの1番が有名すぎる曲であるということも難しさの一因なのではないかと思っている。この曲はアマチュアのサークルのオフ会などでも必ずといっていいほど演奏される曲なのではないか?むろん、アマチュアだけではなくプロの演奏も多い。

しかしながら、この曲で心を動かされる演奏ということは少ないようにも思う。聴き手もバラードの1番はよく知っているし、あまりにも有名な曲ということも理由の一つなのではないかと思うが、多くの演奏が「ただ弾いているだけ」のように聴こえてきてしまう。メカニカルな困難さもあるかと思うが、聴き手が、この曲に無意識に感じる、そして要求してしまう「心の葛藤」「差し込む光と希望」「怒りと喪失感」のサウンドとしての具現化というものを演奏側が担えていないのが最大の要因だと思う。パラパラとパッセージを達者に弾いている・・・という印象になりやすい。

バラードの1番は、非常に感情起伏の激しい曲のように思う。このことが聴き手の人生観、体験というものを無意識に重ねてしまいやすい理由のように個人的には感じる。ドラマティックな曲なのだ。

蝶よ、花よ・・・という何も不自由のない恵まれた人生を歩んでいる人は、もしかしたら「あら、ショパン?素敵ね」という感覚しか持たないのかもしれないが、そんな人は世の中にはいない。誰しもいろいろと涙を折り重ねながら生きているのだ。バラードの1番が人気曲であるというのは、そこに理由があるのだと思う。演奏者側が、「弾けました~」というものしか表出できなかった場合の聴き手の残念感が大きな曲なのだと思う。

以前、イギリスのドキュメンタリー番組だったと思うが、「Chopin Saved My Life」というテレビ番組があり、これは日本でも「私を救ったショパンのバラード」としてNHKで放送されたと記憶している。

ピアニスト、アシュケナージやランランといったピアニストがショパンやバラードの1番について解説、印象を述べるという部分を縦軸とし、そして二人の人物の人生とバラードの1番との関わりといったことを横軸としたドキュメンタリーだったように思う。そのうちの一人は中学生の時に震災を経験し、そして多くの大切な人を亡くし、心に深い傷を負った日本の少女の物語だ。この少女はショパンのバラードの1番を弾いていく、練習していくことで、再び生きていこうと思えるようになっていく・・・

もう一人のイギリスの青年の話は、さらに心を動かされる。バラードの1番を聴いて、「この曲が弾きたい・・・」と独学でピアノを習い始め、そしてとうとう音楽大学にまで入学してしまう青年の話だ。入学後すぐに、この青年(たしかポールという名前だったと記憶している)は脳腫瘍を発症してしまう。全身麻痺、失明、そして記憶喪失・・・

医師は「回復は難しいでしょう・・・」と家族に告げる。しかし、ポールの父親は彼の大好きだったバラードの1番をイヤホンで意識のないポールに聴かせ続けるのだった。そして奇跡の回復・・・

しかし回復もつかの間、ポールは多発性硬化症を発症し、右半身不随になってしまう。でもポールは自分に残された左半身、左手でバラードを弾こうとする。自分で左手だけで演奏できるように編曲し、そして左手だけで実際に小さな演奏会で演奏してしまう。そのような物語だ。

バラードの1番は、聴き手が各々の人生を重ねやすい曲でもあるような気がする。その人なりの人生のストーリーというものをバラードに重ねてしまうのだ。無意識にね・・・

このドキュメンタリーの最後にバラードの1番が全曲演奏される。演奏しているのは、アシュケナージでもランランでもなく、スティーヴン・ハフだ。イギリスのドキュメンタリー番組だから・・・と言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、超人気を誇るランランではなく、ハフが弾いているということは、この番組の制作者の意図でもあるように僕には思えてくる。

kaz



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category: Stephen Hough

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