ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

「ピアノ・・・ごめんな・・・」 

 

「電子ピアノだとピアノは習えないんでしょうか?」

A子さんが初めてメールをくれた時、彼女はそう僕に書いた。僕は無責任だったのかもしれないが、自分の気持ちに正直に「電子ピアノでもピアノは弾けるのでは?」と返信した。僕自身が電子ピアノで練習しているし、電子ピアノでも可能なことはあると思っているから。

A子さんと僕との共通点は電子ピアノの他に、癌という病気があった。A子さん自身は健康なのだが、彼女はお父さんを癌で失っている。彼女が中学生の時だ。A子さんは一人娘で、そしてお母さんは事故で幼い頃に亡くなっているのだそうだ。お母さんの死後、お父さんは、それこそA子さんに愛情のすべてを捧げながら育てた。A子さん自身も、「これは過保護なのでは?私は結婚できないのでは?」と小学生の頃から感じるほどの愛情だったのだそうだ。

「A子ちゃん、ピアノが好きだったら、そしてA子ちゃんはピアノが上手なんだから将来は音楽大学に進んだらどうだろう?」お父さんは、いつも「A子ちゃん」と呼んだ。A子さんはピアノが上手だった。中学に進学する時には、有名音大に多数合格させたり、コンクールにも入賞させたりしている先生に習うようになった。その頃はモシュコフスキーの15のエチュードを弾いていたそうなので、かなり本格的なピアノだったと考えていいだろうと思う。コンクールなどにも参加し、そして入賞したりするうち、A子さん自身も「このまま音大に行くのかな・・・それもいいかもしれない。ピアノ・・・好きだから」などと漠然と思い始めていた。

お父さんが癌になったのはA子さんが中学2年生の時。その頃にはショパンのエチュードを弾いていた。

「A子ちゃん、お父さん・・・こんなことになってしまって・・・ごめんな・・・A子ちゃん・・・ごめんな・・・」

A子さんは親戚に預けられることになった。とてもA子さんを不憫に思い、愛情深く育ててくれたけれど、どうしてもお父さんの夢を叶えられない部分があった。それがピアノだった。親戚の家はマンションだったし、グランドピアノで音を出せる環境ではなかったのだ。

「A子ちゃん・・・ピアノ・・・ごめんな・・・」お父さんは亡くなる直前までA子さんに謝り続けた・・・

A子さんはそれでも良かった。ピアノに蓋をしてしまった。自分の心にも蓋をしてしまった。ピアノはお父さんを想い出してしまう・・・

「音が消せるピアノにすることもできるんでしょ?電子ピアノとかもあるそうじゃない?ピアノ続けたら?」親戚もそう言ってくれたけれどA子さんは「ピアノはもういい・・・」と心の蓋を閉めてしまった。

高校を卒業したA子さんは、親戚を家を出て自活し始めた。働き始めたのだ。

「お父さんが生きていれば私も音大生だったのかもしれないな・・・」

でもピアノのことを考えなければ、辛い想いもあまりしなくて済む・・・

「ピアノなんて・・・ピアノなんて・・・」

A子さんも成人式を迎える年齢に成長した。「A子ちゃん、来年成人式でしょ?お父さんもあなたの晴れ姿見たかったと思うわよ・・・」

その時、A子さんは突然思った。いや、ずっと思い続けていたことが言葉になった。

「叔母さん、私、成人式の支度よりも電子ピアノが欲しい。またピアノが弾きたい。もし、成人式の支度のお金があるんだったら電子ピアノを買うために少しだけ援助して欲しいの・・・」

「そんなA子ちゃん、着物もピアノも両方でいいじゃない?それぐらいさせて」

「いいの・・・もう私、社会人だし働いているし、電子ピアノが欲しいの。でも私のお給料少ないから・・・」

電子ピアノを奏でながら、やはりお父さんのことを想い出してしまう。

「A子ちゃんはピアノが上手だな」「A子ちゃん・・・ピアノ・・・ごめんな・・・ごめんな・・・」

でも再びピアノを弾く自分のことをお父さんは喜んでくれているような気もした。

「あなた・・・電子ピアノでは無理よ・・・趣味の人は私は教えないの。ごめんなさいね」

かつて習っていた先生に再びレッスンをお願いしたが、そう断られてしまった。でもA子さんはどこか心の中でそうなると予想していた。ピアノの先生は大勢いるはず、理想の先生と出逢えるはず・・・と思っていた。

「電子ピアノなんですね。では趣味ということでいいんですね。えっ、ショパンのエチュード?だったら電子ピアノじゃダメでしょ?趣味だったらそれでもいいけど・・・」

「音大を目指すの?もう20歳なんでしょ?趣味で弾いてるの?じゃあ楽しく弾ければいいじゃない?」

趣味・・・

「そうか、私は趣味のピアノということになるんだ。でも・・・」

A子さんは当然のことながら、長いブランクがあったにしても、ピアノを趣味と捉えることに違和感を感じていた。むろん、音大進学などは考えてはいないし、そもそも無理な状況であるので、そのようなことではないけれど、でも上達したかったのだ。

「電子ピアノ?じゃあ趣味で楽しく」「音大?違うのね。では趣味で楽しく・・・」と言われ続けることに疑問を感じ始めた。

「電子ピアノだとピアノは習えないんでしょうか?」

ピアノ・・・また弾きたいな・・・という想い、そしてお父さんとの想い出、「A子ちゃん・・・ピアノ・・・ごめんな・・・」と泣きながらA子さんに謝っていたお父さんの姿・・・両方が重なってきてしまう。

そして再び「ピアノさえ弾かなければ忘れていられるのに・・・」という想いも重なってきてしまう・・・

A子さんが、せっかくピアノを再開しようと思った時に出逢った先生が「趣味と専門」というところの狭間にいる人を理解できない先生だったことが現在のA子さんの悩みにつながっているのだと思う。この問題で悩んでいるのはA子さんだけではないと思う。

そもそも、音大やコンクールのためにピアノがあるのか?逆だろ・・・と思う。

「やっぱり・・・やっぱり・・・ピアノ・・・辛いかも・・・こんなことで心が折れてしまうなんて・・・」

僕はA子さんの理想の先生は必ずどこかにいると思う。趣味とか専門とか、そのようなカテゴライズをしない、音楽というものを追及する仲間としての先生が必ずいると・・・

kaz

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コメント

 

電子ピアノどころか、ピアノがない門下生も・・

ここに書くと勧誘かと誤解されないかと、数日迷っていましたが、やはり書かせて頂きます。そういう価値観の先生ばかりではないです。

私が主催しているキタラの門下生コンサート(発表会ではなく、コンサートです)の出演者にも、電子ピアノの方が複数います。中には自宅にピアノがなく、週末に実家で練習するのと、時々スタジオを借りて練習するだけで、有名過ぎる曲なのに、CDより感動したと言われる演奏をした門下生もいます。(URLのところに、そのことを書いた記事のURLをいれました。)

価値観、色々だなと思いますが、これだけ沢山ピアノの先生がいるのですから、そういう先生ばかりではないです。ゼッタイ。。

諦めないでください。良い先生に出会えますようにお祈りしています。

Megumi #3/2tU3w2 | URL | 2015/02/01 19:10 | edit

megumiさま

おそらくA子さんはmegumiさまのブログも読んでいると思います。冷静に判断して時間をかけてでも、A子さんが、共に音楽を学んでいける先生と出逢えるといいなと思います。

このブログにもコメント頂いたりした方なのですが、イギリスで活動している日本人ピアニストのブログなどもA子さんには紹介したりもしました。そのピアニストも電子ピアノで練習しているので・・・

やはりピアノの先生サイドからそのような意見が出ると、とても嬉しいです。

kaz #- | URL | 2015/02/01 20:46 | edit

ピアノ

ブログ楽しく読ませて頂きました。私はミニベロ乗りのたけとと申します。
A子さんの理想の先生、必ずどこかにいると思います。
またピアノに向かえるように。
ピアノが笑顔のお父さんを思い出さしてくれる日を願います。

たけと #- | URL | 2015/02/02 12:29 | edit

たけとさま

コメントありがとうございます。A子さんは、一般的な考え方だと上級者ということになるのでしょう。初心者であれば「電子ピアノじゃ無理よ」などとあまり言われなかった可能性もあります。ショパンのエチュードあたりを弾いていたとなると「上級者」「グランドピアノで本格的に」と考えてしまう先生もいるのだと思いますし、同時に「電子ピアノ」「本格的ではなく趣味で楽しく」となってしまう・・・

でも焦らずに出逢いを待っていれば、見つけていけば必ず理想の先生に出逢えると思っています。

kaz #- | URL | 2015/02/02 12:52 | edit

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