ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

「メフィスト・カペル」 

 

僕はCDばかり聴いていて、実際に演奏会に出掛けることは人よりは少ないと思います。CDを聴いていて、どこか満足してしまうところがあるのかもしれませんが、リサイタルなどは、開演時間に間に合わないというのも理由なのではないかと思います。仕事場と自宅が世田谷区なので、都心に勤めている人が少し羨ましい感じです。

仕事を調整すれば、聴きに行ける演奏会もあるのですが、そこまでして聴きたいという演奏会も少なく、結局CDばかり聴いてしまうことになります。

でも、実際に演奏家と同じ時間と場所を共有し、臨場感を味わうことの醍醐味は、生演奏ならではなので、演奏会での楽しみを放棄しているわけではないのです。

実際の演奏会で困るのは、演奏が退屈でもCDのように、途中で聴くのを止めたり、飛ばしたりできないことです。曲の出だしを聴いて、終わりまで予測できるような演奏は、ちょっと苦手です。技術的な事だけではなく、その演奏家がどれだけ弾けるか・・・ということには関心がないので、こちらの予想をはるかに超えた演奏を展開してくれないと、基本的には退屈してしまうんですね。僕は、これは当たり前の感覚だと思っていたのですが、どうも贅沢すぎる感じ方のようで、「そんなこと言っていたら生演奏なんて聴けないじゃない?」などと言われてしまうことも多いです。だからCDばかり聴くことになるのですねぇ・・・

CDを聴いていて、「この演奏、生で聴きたかった!」と思うことは、沢山あります。リストの「メフィスト・ワルツ」という曲は、あまり好きな曲ではないのですが、でもウィリアム・カペルのこの曲の演奏は生で聴いたら凄いだろうと思います。カペルの録音は、残念ながら音質が良くないので、なおさらそのように感じます。

このカペルの演奏ですが、彼が22歳頃の演奏なんですね!音符を弾く・・・という意味であれば、このように、これ以上に弾けるピアニストは、現在ウジャウジャいるでしょうが、でもこの演奏、実際に演奏会で聴いたら本当に凄かっただろうなと思います。カペルのリサイタルであれば、是非聴いてみたいと思ったでしょうね・・・

kaz




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飛翔するラフマニノフ 

 

ウィリアム・カペルのCDを久しぶりに聴いています。若くして亡くなった演奏家だから惹かれるのだろうか?僕が重篤な病を経験していて、人よりも「死」というものに敏感だから?

それはないですねぇ!僕は別に悟りの境地にいるわけでもないし、お坊さんのような生活をしているわけでもありません。

ただ、カペルのように、事故で亡くなった場合、当然の事ながら、本人は自分の死というものを自覚してはいなかったと思われます。演奏も、若さに溢れて上昇気流に乗った、まさにキャリアの頂点に飛翔するかのような演奏に感じます。だからこそ、突然の死は、演奏家の真の姿を映し出すことになります。木を切って、その切り株が年輪を露わにするかのごとく、その演奏家のすべてを露わにしてしまう。若くして亡くなったがために、その演奏には、「円熟」といった要素だけは感じられないことになります。なので、その演奏家の「演奏」に対する根本の感じ方のような、素の部分が見えてくる・・・

現在残されているカペルの録音の多くは、彼の20代の時のものです。現在の、コンクール出身の優秀な若手ピアニストと、そう変わらない年齢の時の演奏です。でも、その演奏は、現代の若手とは、何かが違うように僕には思えてきます。カペルは特に個性派に分類されるピアニストではなかったように思えます。でも、いかにも「音符を正確に弾いています」とか「完璧に仕上げたパーツをつなぎ合わせて曲にしています」といった感じではなく、カペル自身が感じた音楽、それを自然に表現しているように思えてきます。でも、決して独りよがりの演奏ではなく、曲と一体となっている・・・

本来は、これらのことは、演奏というものには基本的に備わっていないといけない要素であるように思うのです。でも、この要素が皆無でも、人を感嘆・感心させることは可能なので、そこが難しく、そして哀しいところでもある・・・

kaz




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ラフマニノフの似合う男 

 

1953年10月29日、午前8時15分・・・英連邦太平洋航空304便は、サンフランシスコ国際空港に着陸するため、機体を降下させた。サンフランシスコ周辺は霧で覆われていた。

午前8時44分・・・同機はサンフランシスコ郊外の山地に激突した。乗客・乗員は全員死亡。機体の残骸は800メートル四方に散らばっていた。

この航空機に、オーストラリアでの演奏旅行を終え、アメリカに向かっていた一人の天才ピアニストが乗り合わせていた。ウィリアム・カペル・・・31歳。

もし、カペルが事故に遭遇せずに演奏活動を続けていたら、現在聴くピアニストたちの演奏は、もっと違うものになっていたのではないか、そのようなことさえ感じてしまう。

カペルが19歳の時にニューヨーク・デビューをしたのは、1941年。その時のプログラムは、時代やカペルの年齢を考えると、ただ驚くばかりだ。バッハの平均律と組曲をカペルはこの時に弾いている。グールドがデビューする10年以上前の事だ。さらにはブラームスの1番のソナタ、ショパンとラフマニノフ、そしてアルベニスの「イベリア」から2曲、メトネル、ショスタコーヴィチ・・・

バッハをプログラムに組んだということも当時としては、珍しかったが、アルベニスやメトネル、そしてショスタコーヴィチという時代の先端の音楽を取り入れているのも凄い。ブラームスのソナタは3番ではなく、1番を弾いたということも、なんだかカペルらしい気がする。

カペルは超絶技巧のピアニストであったと思うけれど、でも決してその演奏から、「汗」や「努力」を感じさせることがない。さらに、若さゆえの瑞々しささえ、その演奏から感じてしまう。

もし・・・もし、カペルが304便に乗っていなかったら・・・

大変な難曲であるラフマニノフの3番のコンチェルト、でもカペルの演奏は汗を感じさせない。ラフマニノフの3番がとても似合うピアニストだった・・・そう思う。

この演奏は、カペルの亡くなる数週間前のライブの録音・・・

kaz




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