ピアノのある生活、ピアノと歩む人生

「ピアチェーレ」代表の私的ブログ

技巧的ということ 

 

「技巧を駆使した演奏」という表現から連想されるのは、指は達者に動くけれど、どこか無味乾燥というか、そのような演奏。「超絶技巧」という言葉も、どこか「バリバリと弾く」のようなイメージがあったりする。

「超絶技巧」とか「技巧を駆使して演奏する」という言葉、これはどこか「感情豊かな演奏」とか「表現力豊かな演奏」とか「惹きつける演奏」というものとは対極にあるようなニュアンスさえ感じさせ、そのような演奏を表現する時に使ったりもする。

「技巧的には達者だけれど、表現面では子どもだから未熟である」のように・・・

技巧、本来は、これは駆使すればするほど「表現豊かな演奏」になるものでは?技巧を駆使するので表現力豊かになる。

どこか、「技巧」=「ただ達者にバリバリ」=「無味乾燥」、そして「感性・センス」=「表現力豊か」=「魅力ある演奏」というふうになっていないだろうか?人々の概念がそのように固定されてしまっているというか・・・

かつて「アマチュアだからってテクニックとメカニックという概念は混同してはダメじゃないか・・・」と言われたことがあるけれど、僕だけではなく、多くの人、専門家(ピアノの先生とか)でさえ、このあたりを混同してしまっているのではないだろうか?

技巧を駆使すればするほど表現力が増す・・・この場合の「技巧」という概念は「テクニック」ということなのだと思う。「テクニック」と「メカニック」は同じものではないような気がする。

演奏する際には、技巧を凝らす必要があるのではないかと思われる。

フランチェスカッティの古い録音を聴きながら、ふとそんなことを思った・・・

kaz



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最後のシャコンヌ 

 

Aさんは長いアメリカでの生活を終結させ、日本に帰国した。その時は僕も日本での新しい仕事にも慣れ、お互いの住まいも近かったので、よく会って話をしたり食事をしたりした。

Aさんが日本に帰国したのは、病、癌を患ったためだ。

「もう自分の病気と闘うのはいいかと感じてね・・・」

入退院を繰り返し、別人のように痩せてしまったAさんを見るのは、正直辛かった。

「kazさんは、まだ自分でも演奏しようとは思わないのかい?まだ決心できないのかい?」Aさんは僕に会う度にそのように言った。

「うーん、今は忙しくて・・・」

「そうか・・・」

Aさんは歩くこともできないほど衰弱していたけれど、でも毎日ヴァイオリンの練習は欠かさなかった。立って演奏することは、もうできなかったので、椅子に座って練習していた。

絶対にAさんには訊いてはいけないことのようにも思えたけれど、でもどうしても訊いてみたかった。

「何故・・・何故そこまでしてヴァイオリンを弾くの?」

Aさんは、目を閉じて、しばらく考えていた。

「音楽が人生だから・・・人生が音楽だから・・・」

Aさんは静かに僕に言った。

「kazさん、このヴァイオリンを弾いてみないか?」

Aさんは僕に高価なAさんの楽器を持たせ、弾いてみるように言った。

「ここを押さえて、弓をこのようにして・・・」

僕の出したヴァイオリンの音は、想像を絶するほど酷く、二人で大笑いした。「kazさん、ヴァイオリンはやめておいたほうがいいと思うよ。僕からのアドバイスだ」

そして、僕からヴァイオリンを受け取ると、そのままAさんは、ある曲を弾きだした。

その時の僕の気持ちを文章にすることはできない。どうしてもできない・・・

曲の途中で、Aさんは演奏を止めた。

「申し訳ない・・・ここまでしか弾けない。もう弾けないんだ。体力が続かないんだ。僕はもう弾けないんだ。以前のようには弾けないんだ・・・」

初めて見るAさんの涙だった。

そしてAさんは、泣きながらフランチェスカッティのCDを聴いていた。いつまでも・・・

「音楽はすべてを包み込んでくれるんだ・・・」Aさんは静かに僕に言った。

その言葉が印象に残っている。

Aさんと話したのは、その時が最後になった。Aさんの演奏を聴いたのもシャコンヌが最後になった。

kaz




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ツィゴイネルワイゼン・・・テクニックとメカニック 

 

Aさんの演奏を舞台で聴いたのは、アメリカのある音楽祭での演奏が初めてだった。彼はサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」を弾いた。

「この曲は指定されることが多くてね・・・」

「一時期は、あまりにこの曲ばかりを弾かされるんで、正直うんざりしてしまうようなこともあったんだけど、でもkazさんと、この間フランチェスカッティのことを話していて、久々に彼のツィゴイネルワイゼンを聴いてみたんだ。いやぁ・・・凄かったねぇ・・・このように弾けたらと、また子供の時のような純粋な気持ちになったよ」

「フランチェスカッティの何がそんなにいいの?」

「そんな質問には答えられないねぇ・・・すべてさ!」

いつもは温厚なAさんには珍しいことだったけれど、一度だけ僕に怒ったことがある。たしか僕が「テクニック」という言葉を使った時だ。「フランチェスカッティのテクニックは見事で・・・」のように。

「kazさん、それはテクニックではなくメカニックという言葉を使うべきだよ。音楽に関わる人だったら、たとえ聴くだけであっても、そのあたりの概念はしっかり認識していないと駄目じゃないか!」

テクニックとメカニックとの違い・・・それはAさんに教えられた概念だ。僕に限らず、この部分を混同している人は多い。

「凄く大事な概念だと思うよ・・・」

Aさんには実に多くのことを教えられたと思う。

「日本人の練習や演奏をするときの概念で最も欠けているものは、いい意味でのスノビズムだと思う。日本人は人に嫌われるのを極端に恐れすぎる。最後に残るものはスノビズムを保ってきたという誇りだと思う」

このAさんの言葉の意味は、当時は理解できなかった。今でもできない。

Aさんに質問してみたい。でもAさんは、もういない・・・

kaz




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シャコンヌ・・・ヴィターリ 

 

なぜ今フランチェスカッティなのか・・・

それは友人であったAさんの命日が近づいているということが関係しているのかもしれない。

Aさんとはアメリカに住んでいる時に知り合った。Aさんはアメリカの音楽院で教えていた日本人のヴァイオリニストで、結構日本でも有名な人だったのではないかと思う。なので、アメリカで教えていたということ以上の事を書いてしまうと誰なのかが特定できてしまうかもしれないので、それ以上の個人的な情報は書くことはできない。

彼は、何故か、素人である僕のことを気に入ってくれた。彼も僕も声楽が好きで、現代の演奏家よりも昔の演奏家に惹かれるというところが共通していたのだと思う。

「kazさんは、自分でもピアノを弾いてみたいとは思わないのかい?」

Aさんは、よく僕にそう言った。「聴いているだけだと寂しくないかい?」

僕はピアノを弾けない理由を沢山並べたと思う。忙しい、今は英語が大変、勉強が大変、聴くだけという楽しみもある・・・

Aさんは僕の言い訳を黙って聞いていた。ただ寂しそうに笑った・・・

フランチェスカッティは、Aさんの憧れのヴァイオリニストで、僕もフランチェスカッティが大好きだったので、そのあたりも共通していたのではないかと思う。

「僕はね、子供の頃フランチェスカッティのシャコンヌを聴いた時、ヴァイオリンの世界に足を踏み入れようと決心したんだと思う。子供の頃はヴィターリのシャコンヌをフランチェスカッティみたいに弾けるようになりたくてねぇ・・・それは今も同じだけどね」

「kazさんは絶対にピアノを弾くようになると思うよ。そんな気がする・・・」

「うーん・・・」

「いつかフランクのソナタを一緒に弾こうよ・・・」

「うーん・・・それは無理かもぉ・・・」

「いつまでも自分の気持ちを偽ることなんてできないよ。きっと弾くさ」

「うーん・・・」

Aさんは僕に言った。「楽器を演奏するんだったら真剣にやって欲しい。音楽にはそれだけの価値があるから。kazさんがピアノを弾く時には真剣に取り組んで欲しいと思う」

ヴィターリのシャコンヌ、このフランチェスカッティの演奏の何がAさんの心を動かしたのだろう?

言葉にはできないけれど。その何かが存在することは分る・・・

kaz




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至難曲 「妖精の踊り」 

 

ジノ・フランチェスカッティのCDは膨大な量を聴いてきたけれど、彼の映像は見たことがなかった。

もちろん、ユーチューブで・・・ということもできたのだと思うのだけれど、どこか躊躇していたのは、「もしフランチェスカッティも陶酔弾きをしていたらどうしよう?」という心配があったからだ。

ジョシュア・ベルだったら「あら、残念・・・」ぐらいで済むけれど、フランチェスカッティの場合だったら立ち直れないほどショックも大きかろうと・・・

フランチェスカッティの「妖精の踊り」の映像。ジノはバッジーニの孫弟子になるわけなんですね。

結果は「大丈夫でしたぁ・・・」

ジノは普通に弾いていましたね。

それにしても「妖精の踊り」という曲、演奏が大変そうだ。伴奏だったら弾いてみたい!

kaz




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